大切なものは

第 26 話


「なんだ、この量は」

スザクが戻ったという連絡を受け、部屋に戻ってみればそこには想定外の光景が広がっていた。

「君がくれたメモの量、僕が持ってこれるギリギリって言ってたけど、予想以上に少なかったから、持てるだけ買ってきた」

さも当たり前のように言うのだが。
だからって、こんなに買ってくるバカが居るかと怒鳴りたい気持ちはとりあえず抑えた。言い方が悪かったのだ。スザクが持てるのはこのぐらいだろうという言い方をしたために、自分が持てる限界はこんなものじゃないと考え、これだけの量を買ってしまったのだ。もしかしたら、この程度しか持てないと思ったのか?と、プライドを傷つけてしまったのかもしれない。これは反省し、受け入れるしかない。なにせすでに買ってしまったのだから、今考えるべきはこれらをどう保存し、使い切るかだ。

「・・・ルルーシュ?」

あまりの量に呆然としてしまったせいで、スザクが訝しげな表情でこちらを見ていた。訝しげ?違うな。これは不安な顔だ。買ってきすぎたことで怒られると思っているのだろう。最近ずっとこちらを警戒し、今にも首を絞めてきそうなほどの殺気が漏れていた姿ばかり見ていたから、悪い方悪い方に考えてしまう。

「・・・いや、大丈夫だ。だがこれを一度に処理するのは難しい。保存のきく根菜は冷暗室に移動させてくれ。保存食は後で片付けるからひとまとめに・・・そうだな、その隅に置いてくれ。俺は肉を捌く」

要冷蔵の加工食品や卵などを冷蔵庫に詰め込みながら指示を出す。こんなに一気に使えないと普通ならわかりそうだがという気持ちはあるが、うまく保存すれば無駄にせずすむだろうし、足りないよりはマシだと考えるようにした。
腐りやすいものから順に効率よく処理をするには、どのルートで攻めるべきか。魚や肉は小分けして冷凍。野菜も一部冷凍することになるだろうが後回し。頭の中で数日分のメニューを組み立てていく。肉類は下処理をしてから冷凍すれば調理時間の短縮にもなるだろう。まずはこの大量の鶏肉を始末するか。スザクは唐揚げが好きだったから、半分は唐揚げ用にしてもいい。

「ダメだ。僕が捌く」
「お前料理できないだろう。俺がやる」
「少しは出来るよ。大体きみ、片手で捌けるのか?」

それを言われると、反論はむずかしい。
両手があればサクサク進められるが、片手でなどやったほとがない。幸い利き手は無事だが、抑える側の手が肘までしかないのだ。きっちり抑えることは難しく、何よりバランスが取りにくいだろう。それでもやらなければならない。これは練習だ。何事も練習しなければ・・・

「考え込んだ時点で無理だろ。予定以上に買ってきたのは僕の責任だ。どう捌けばいいのか指示をくれればいい」
「大丈夫だ、俺が」
「・・・・僕が、やると言っている」

低く冷たい声で、スザクは言った。
今すぐにでもそこにある包丁でルルーシュを殺しそうな殺気と声。
これは、何を言っても引かない。
いや、こうなったらもう話を聞かない。
不本意だが、引くしかない。

「わかった。だが、どう捌くかは俺の指示に従ってもらう」
「・・・わかった」

ルルーシュの指示に従うことが不満なのか、スザクは不愉快そうな顔のまま頷いた。
軽快な包丁の音がキッチン内に響き渡る。

「うまいものだな」

ルルーシュの指示通り、スザクは次々と鶏をさばいていく。普段包丁など使わないと思い込んでいたが、もしかしたら自炊しているのだろうか。世界一のピザを作るときも、スザクは手際よく野菜を刻んでいたなと思い出した。
ルルーシュはそばで用意した袋に1回分の肉を入れ、調味料などを加えていた。袋の口を縛るのは後でスザクに任せることにし、袋を次々量産していくのをスザクは横目で見ながら口を開いた。

「軍でよくやっていたから」
「ああ、なるほどな」

軍の炊き出しは下級兵の役割。それを考慮しても、やはり手際が良い。
鶏が終わり豚と牛を小分けにしラップで包み、食品保存袋に入れていく。片手だとラップを切るのだけでも大変だ。左腕で抑えるのだが、傷の切断面が痛み、上手く力が入らない。スザクがそんな姿を見て冷たい視線を向けてくる。そんなことも出来ないのかと見下されている気がしてイライラするが、1回目より2回目、2回めより3回目と確実に上達している。焦るな。最初から完璧になど出来ない。本当はこんな情けない姿をスザクに・・・いや、人に見られたくはなかったが、今は仕方ない。今後は、どうにか隠れて練習を。
切る作業を終えたスザクも小分け作業を始めたときにはすでに日が落ちていて、食材の下処理すべて終える頃には夕食の時間になっていた。

「まさか今日中に片付くとはな」

足の早いもの以外は後日と思っていたのだが、すべて終わらせてしまった。

「ごめん、こんなに大変になるとは思わなかった」
「え?」

後片付けをしながら、スザクがあやまってきたので、ルルーシュは思わず驚きの声を上げた。確かに最初に予定していた量ならこんなことにはならなかっただろう。だが、それはルルーシュの言い方が悪かったのであって、スザクのせいではない。それにこれだけあればしばらく買い物に行かなくていい。1人では大変な作業も手伝ってくれたから早く終わった。今後のメニューも決まったし、食材も無事使い切れることがわかったのだから、マイナスよりプラスのほうが大きい。だから謝る必要などない。

「その、きみの体の事、考えてなかった」

ルルーシュなら難なく片付けると思っていた。
片手だとわかっていたはずなのに、そのときは考えもしなかった。

「いや、助かった。ありがとう」

礼を言うと、スザクが驚いたようにルルーシュを見た。
まあ、嬉しくはないだろう。
憎む相手に礼を言われても。

「それより、お腹すいただろう。何か作ろう」

材料は揃った。片手だから多少時間はかかるだろうが、料理は作れる。

「いや、もう遅いから。非常食を開けよう」

そういうが早いか鍋に水を張り火にかけ、缶詰とレトルトパックのごはんを引っ張り出してきた。こうなったらスザクは引かない。ルルーシュは諦め、冷蔵庫からサラダのパックを取り出した。

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